がんになっても 普通に生きる

がんについての理解 そしてがん患者への誤解をなくすために

緩和ケアとは?

ここに出てくる彼女とのやり取りで、一つだけ後悔していることがあります。それは、ホスピスに移るにあたっての話し合いに来てほしいと頼まれ、それを断ったことです。ご家族を交えて話し合わなければいけない大事な場面に、私が立ち会うのは少し違うのではと、悩んだ末、「ここはご家族の方がいい」と言いました。彼女の落胆は大きかったように思います。「家族は病気のことをあまりわかっていないし、役に立たない。それよりもよくわかっている私に」と同席を求めた彼女の気持ちを汲んで、話し合いに立ち会えばよかったと今は思います。

医療者との対話がうまくいっていないこと、彼女自身が言いたいことをうまく伝えられていないこと、振り返ると、その部分の解消くらいはできたのではないかと考えるからです。言いたいこと、考えていることはたくさんあるのに、その思いを表現できない患者はたくさんいます。このコラムでは、患者側から見た景色を書いていますが、きっと医療者側にも言い分はたくさんあったのだと思います。コミュニケーションは片方だけでは成立しません。両者にかけ違いが起こっているのなら、患者の思いを代弁できる第三者が橋渡しをすることも、時には必要なのだと思います。それなら私にもできたかもしれない、彼女のことを思い出すたび、後悔という痛みが走ります。

 

「聞いてもらえて救われる」(2015年10月号掲載)

「緩和ケア」と聞いて、どんなイメージを持ちますか?たぶん多くの方が、もう治療がなくなった患者が最後に受けるものと思っているのではないでしょうか。

けれどそれは昔の話で、今はがんと診断された時から必要に応じて行うものとされています。薬の副作用を抑えるのもそうですし、告知などで心に受けたダメージを癒すのもそう。緩和ケアはがん治療の一つであり、早くから行えば生存期間が延びるというデータも出てきています。

とはいえ、前回にも触れたように、医療現場でさえまだ緩和ケアは終末期のものという概念が根強く残っています。

治す治療がなくなった病気仲間は、緩和ケア病棟のある病院に移るにあたって、がん認定看護師と何度も話す機会があったのですが、そのたび傷つき憤慨していました。「次の病院の治療では・・・」など「治療」という言葉を出すたびに、「次の病院は治療ではなく痛みを取るだけ」と訂正されたからです。

なぜいちいち「治療ではない」と訂正するのか、私には理解できませんでした。「痛みを取るだけ」と「痛みを取る治療」。同じようで、受ける側のイメージは全く違います。前者には後ろ向きの、そして後者にはまだ何かやれるという前向きのイメージが生まれます。「緩和ケアはがん治療の一つ」というとらえ方は、治す治療がなくなった時に一段と意味を増すのです。

「治療ではない」と言い直されることで、この時期の彼女からは、不安や怒りのメールがたびたび送られてきました。それらを読んでいて、緩和ケアになるべき医療者とのやり取りが、逆にストレスになっていると感じた私は、「もう、その看護師さんとお話しするのをやめませんか?これからは自分にとって心地いいことだけを選んでいきましょう。」と返信しました。

そして移った病院で、「残念ながらもう治すことはできないけれど、痛みを取るなどやれることはありますから、それでできるだけしんどい部分を減らしていきましょう。」と声をかけられて、少し気持ちを落ち着かせます。

これまでの病院でも、まずはこういう言葉がけから始めていれば、彼女もここまで傷つき、感情を乱すことはなかったのではないかと思います。終末期には、患者と医療者が信頼し合える関係を築いていないとうまくはいかないと実感しました。

何年も闘病してきた彼女が最後に、なぜか病院で少し一緒になっただけの私を、それもがん患者としてはひよっ子の私を頼りにしてくれました。それはとても荷の重いことでした。頻繁に寄せられる言葉の数々に、どう対すればいいのか悩みました。そして悩み抜いた末に、「自分だったら、どうしてほしいか」だけを考えることにしました。

短い交流を振り返ってみると、何もできなかった無力の自分がいます。私のやれたことはただ、「彼女の思いを受け止める」だけでした。けれど「聞いてもらえて救われる」、そう繰り返しもらった感謝の言葉に、今は私自身が救われています。

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さかゆうプロフィール

さかゆう

さかゆう

しゃべり手 たまに書き手。 ネット問題に取り組む消費生活アドバイザーでもある。母親を希少がんで亡くし、自身も 2014年に乳がん発覚。手術を行い 現在経過観察中。