がんになっても 普通に生きる

がんについての理解 そしてがん患者への誤解をなくすために

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今回のコラムは、病気について学び、記録することの意味について書いていますが、医療機関にお任せだった患者の医療情報であるカルテそのものも、今後患者に委ねられるようになっていくかもしれません。すでに佐賀大学医学部附属病院が試みています。

簡単にシステムを紹介すると、まず「MIRCA(ミルカ)」という顔写真が入った、QRコード付きの管理カードを作ります。そしてスマートフォンやタブレットの専用アプリ「佐賀Mircaパーソナル」でカードのQRコードを読み取ると、画面に自分の診療記録などの医療情報が出てくるというのです。

こうして自分の医療記録を手元に置くことになると、初めて行く病院にも自分の病歴などを簡単に伝えることができるようになります。また、親の病状を遠く離れた場所に住む子どもが把握できたりもします。

セキュリティーの管理問題や端末を持たない層への対応など、広めていくにはまださまざまな問題が出てくるのでしょうが、この制度が広がっていくと、自分の病気について知ろうとする患者は増えていくように思います。今後はますます、自分の病と積極的に向き合う時代が来るのかもしれません。

 

「学びと記録 よりよい治療」(2016年6月号掲載)

乳がん患者は勉強熱心な人が多いといわれます。治療や経過観察の期間が他のがんより長いということも関係しているかもしれません。病との付き合いが長くなれば、知識も増え、必然的に病気に詳しくなるからです。そして患者数が多く、患者団体を作りやすいことも関係しているかもしれません。

さらに乳がん学会は患者も参加できますし、ホームページも充実していて情報を得やすい作りになっています。学ぼうと思える環境が比較的整っていることも、勉強熱心な患者を増やしている要因だといえます。ちなみに、学会への患者参加を実現させたのは患者自身だそうで、今私たちはその頑張りの恩恵を受けています。

こうして患者が学ぶことは、治療の面でも良い影響を与えます。というのも、がん治療では、病気について学ぼうとする前向きな姿勢が、より良い医療に結びつくからです。では、勉強していない患者と、勉強している患者とではどんな違いが生まれるのでしょう。

たとえば同じ診療時間内で、医療者が話す内容が変わってきます。前者には初歩的な説明に終始しなくてはいけませんが、後者にはさらに深い話ができます。結果、患者が得られる情報量に大きな差が出ます。自ら学ぼうとしないと損をすると思いませんか?

とはいっても馴染のない用語に尻込みする方もいると思います。拒否反応といえば、がんの告知時にもらう病理検査の結果などはその最たるものです。医学用語だらけで、何が書かれているのかさっぱりわかりません。当然担当医が内容をかみ砕いて説明してくれますから、結果の紙など患者が見る必要はないと思ってしまいがちです。

けれど、ネットが発達した今、難しい医学用語でも調べることが可能です。私は書かれている内容の一字一句が知りたかったので、主治医から説明を受けたあと、自分でも調べました。すると案外素人でも読めることがわかりました。説明してもらった内容と合わさり、さらに理解も深まりました。皆さんも、病理検査結果を受け取ることがあれば、一度自力で読むチャレンジをしてみてください。医学用語との距離が少し近づくかもしれません。

その他、がんと付き合う上で自分の病状を記録し、まとめていくことも良い医療につながります。いつ、どんな治療を行い、その後、体がどんな反応をしたか。医療者とはどんなやり取りをし、どう感じたかなど、日々の状態も含め細かく記録することで、次の診察時に聞きたいことや伝えたいことも明確になります。

私は術後予期せぬことが起こった際、これまでの記録や調べた資料を改めて見直すことで、思考停止状態になった頭を、また元に戻すことができました。病は時に振り返ることも大事で、記録してきてよかったと思いました。

がんの治療は長くなることが多いので、治療中に担当医が変わることもよくありますが、そんな時にも自分記録は役立ちます。闘病の記録は、自身の取扱説明書でもあります。カルテとはまた違った、患者目線の記録簿。これがあれば、新しい担当医に伝えておきたいことも、整理しやすくなります。

「勉強し、記録する」これは患者ができるがん治療だと私は思います

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