がんになっても 普通に生きる

がんについての理解 そしてがん患者への誤解をなくすために

患者の自己責任と言う前に

最近「自己責任」という言葉をよく耳にします。けれどそれは、自己選択できる体制が整っているからこそ言えるのであって、個人ではどうしようもない現状で、自己責任論が持ち出されることには違和感を持ちます。強者や持てる者の論理で自己責任論を語ってはいけないと思います。そうはできない人への心配りをすることは、一人ひとりが生きやすい世の中になることでもあるのですから。

自由診療の現状も、とても患者の自己責任で済ませる状況ではありません。そろそろ規制をかけて、患者が自己選択しやすいよう整備され、無駄な治療でさらに苦しむ患者が少なくなることを願います。と同時に、消費者問題に取り組む者として、医療問題にどんなアプローチができるのかも考えていかなければと思っています。

 

『紛らわしい医療「広告」』(2016年11月号掲載) 

従来型の免疫の働きを活性化させる免疫療法は、確立された治療効果が得られていませんが(詳しくは腫瘍内科医の勝俣範之さんが書かれたヨミドクターのコラム「正しい免疫療法のすすめ(上)」を参照してください)、以前そうした免疫療法の広告が神戸市の広報紙に掲載されました。「がん細胞療法セミナー」という無料セミナーの広告です。

調べてみると、免疫療法を総合支援する会社が出している広告で、会社のホームページには、この療法を行っている全国のクリニックが掲載されていました。各地で無料セミナーを行い、その地にあるクリニックに誘導するようです。

この会社のホームページには、「免疫力が高ければある程度のがんが襲ってきても防げます」などと書かれています。念のためそこに載っているクリニックのホームページもいつくか見てみました。あるクリニックは、料金1回30万、12回を1クールとしていたので、合計で360万となります。中には一切料金を示していないところもありました。

この広告が掲載された広報紙の特集が「未来をつくる、神戸の医療」だったこともあり、記事と混同してしまう人が出てこないかと気になりました。そこで一緒に消費者問題の活動をしている神戸市の職員に投げかけてみました。すぐに担当部署に、一市民の声として伝えてくれて、後日回答が神戸市の広報紙広告掲載取扱要綱とともに送られてきました。ちなみにこの要綱は、市のホームページにも掲載されています。

回答内容は予想した通り、「掲載は要綱に基づいて行っている」というもので、重ねて来月号にも載るというおまけつきでした。確かに要綱から外れていないし、医療広告のガイドラインにも抵触しているわけではありません。載せない根拠はないだけに、市としては当然の扱いです。ただ、こうした医療が問題視されていることくらいは、担当者にも知っておいてほしいと思い、今回は敢えて投げかけました。

免疫療法は、治療法がなくなった患者の救いになっている側面があります。積極的な治療がまたできるようになるという救いです。もちろん本当は積極的治療がなくなっても、緩和治療というQOL(生活の質)を上げる治療は続き、それには延命効果があることもわかってきています。緩和治療も有益な治療なのですが、「治す」という期待感がないせいか、「奇跡を起こせるかもしれない何か他の治療法を」となるのかもしれません。

もう治すことはできない現実を受け止めるのは容易なことではありません。延命ではなく、治りたいと思うのが人間だからです。年齢が若い方や、まだ幼い子どもを抱えている方などは、その思いがさらに強くなるはずです。

考えてみれば、治すことは今の医学では難しいため長く上手に付き合っていくことに目標を変えざるを得ない病気はたくさんあります。けれどがんの場合、「治らない=死」というイメージが強く、「治す」ということ以外に目が向きにくいところがあります。それだけに、目の前に試していない治療法があれば取り組んでみたくもなります。そしてクリニックの免疫療法がこうした患者の受け皿になっています。

一方こうした話をすると、「それはお金がある人の話だ」と言う人も出てきます。でも家族の立場になるとどうでしょう。可能性があるなら、無理をしてでも受けさせたいと思わないでしょうか。私も自分なら、そんな費用対効果の合わない治療は受けないと断言できますが、家族なら試させたいと思ってしまうかもしれません。

免疫治療に限らず、標準治療から外れた、保険がきかない高額な治療がクリニックでたくさん行われています。そうした治療がすべて単なる気休めにすぎないのか、少しは効果がある人もいるのか、あるならどの程度なのか、患者には判断ができないため、そこにかけてみたくなってしまいます。そしてその背中を押すかのように、期待を持たせる言葉がクリニックのホームページには踊っています。

こうした状況を情報量も少なく、判断力も劣る患者側の自己選択と放置しておいてもいいのでしょうか。事業者と消費者の取引は、その情報量の違いなどから消費者を守る法律が、十分とはいえないまでも整備されてきました。

医療に関しても、野放し状態の自由診療に対しては、こうした取り組みが不可欠です。自由診療で行われている各療法を国が公的に評価し、積極的な情報提供を行うとともに、目に余るものには規制をかけることも必要です。そうした整備がきちんとなされて初めて、患者の自己選択、自己責任となるのだと思います。

 

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さかゆうプロフィール

さかゆう

さかゆう

しゃべり手 たまに書き手。 ネット問題に取り組む消費生活アドバイザーでもある。母親を希少がんで亡くし、自身も 2014年に乳がん発覚。手術を行い 現在経過観察中。