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遺伝子がもたらす差別

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前回の「遺伝性のがんと遺伝子検査」では、案外知られていない遺伝性のがんとその検査、そして取り巻く現状について書きました。

がんになりやすい遺伝子変異があることを早めに知っていれば、予防の意識が持てるし、また万が一発症してもそれに見合った効果的な治療ができるなど、多くの利点があります。

とはいえ、私たちが遺伝子情報をうまく活用するには、まだ様々な問題があります。前回はその一つ、費用面について取り上げましたが、今回はさらに踏み込んで社会的課題についてです。というのも、遺伝子検査には社会的リスクを生み出す可能性があるからです。

例えば、私にがんになりやすい遺伝子の素因があったとします。「自分の娘もそうなのでは?」と心配になり、遺伝子検査を受けさせたところ、変異がみつかりました。その事実を知った私は心配事が増えていきます。

娘に将来結婚話が出てきたらどうする?相手に告げるのか告げないのか。やはりがんのリスクが高いことがわかっていて、黙ったままでいるわけにはいかないし・・・。では告げるとして、いつどのように切り出すのか。その時相手はきちんと理解してくれるのか。もしわかってくれたとしても、それが結婚の障害になっていかないのか。

仮定の話だというのにどんどん悩みが深まっていきます。実際こうした苦悩を抱えている方はおられるはずです。

結婚差別には、これまでも出自や病歴など、様々起こってきた歴史があります。そうしたことが遺伝性がん家庭にも起こり得るわけです。そして、差別は結婚だけでなく、就職などにも及ぶ可能性があります。

こうしたことは遺伝子検査で先を行く米国でも問題となって、2008年に「遺伝子情報差別禁止法」が作られました。雇用や保険加入において、遺伝子情報を要求することなどを禁止しています。またヨーロッパでも取り組みは進んでいます。

ただ法規制には限界があって、生命保険などの高額商品を始め、米国では、所得補償保険や長期介護保険なども対象外にされています。というのも、遺伝子情報を得た人が、その情報を基に高額な生命保険に入るなど、逆に有利な選択をすることも可能になるからです。規制するにあたっては、各国とも保険会社の抵抗が強まり、例外が認められた経緯があります。

では日本はどんな対策をしているのか。残念ながらまだほとんど何も行っていないというのが現状です。昨年、有識者会議が開かれ、話し合われましたが、まずは「差別の実態調査から」という程度にとどまっています。

遺伝子差別という概念がまだ広まっていない社会状況も確かにありますが、すでに各国で問題が起こっていることに加え、日本でも遺伝子検査が始まっている現実を考えれば、法整備は決して時期尚早ではありません。

遺伝子差別は、いつ、誰が、どんな立場で関わることになるかわかりません。日本はどんな対策をしていけばいいのかは、自分はどう対していくべきかという、自分事としての視点を持って考えていきたいです。

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