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乳房には女性の物語がある

time 2017/03/31

乳房には女性の物語がある

医師や看護師など医療関係者中心の会合に参加した時のこと。楽しい雑談が中心でしたが、後半、乳がん患者の胸を切る、切らない、で議論になりました。

胸がきれいで、それを誇りに思って生きてきた人に乳がんが見つかり、片方の乳房を全部切る、いわゆる全摘をしなくてはいけない病状だとわかります。けれど何より大事な胸を切るのは嫌だと、本人が抵抗しているという事例についてです。

「こういう場合、本人の思いを最優先すべきでは?」「治療をしないその後の悲惨さを知っているだけにそうは思えない」「その人が本当に覚悟をもって切らないと言っているのかを確かめることからでは?」と様々な意見が出ました。

専門医に全摘を勧められていて、切らないことで再発や転移の可能性が高まる状態なら、やはり切る選択も視野に入れる必要があると私は思います。けれどそうした現実に目を向けたくないと思わせるものが女性の胸、乳房にはあるのです。

女性にとってこの乳房とはどんな存在なのでしょう。

子どもに母乳を与えるという役目はありますが、その時期を除けば、生きて行くのに必要なものとはいえません。

「性」というくくりで語られることが多く、自分のものなのに、パートナーのものでもあるかのような錯覚をしてしまいます。乳房を失ったことで申し訳なく思い、パートナーと別れてしまう人もいます。

また女性を象徴するものでもあるので、無くすことで、女性ではなくなったように感じて、自信を失う人も出てきます。その自信の喪失は恋愛だけでなく、仕事など多方面に影響してしまうことさえあります。

さらに年を重ねると、今度は他人から「今さら恋愛するわけでなし、もう必要ないでしょ」などと決めつけられることがあるなど、考えたら何かと複雑で厄介で面倒で、でもそこには、人にはわからないその人だけの物語が宿っているものなのです。

かつて知り合いの女性に、胸が無くなるかもとなった時ショックだった、という話をしていた時のこと。「私の友人も全摘した人がいるけど、シリコンを入れて胸を再建して結婚もしたし、幸せにしているよ」と軽く返されて、なんだか嫌な気分になりました。

何が不快だったのか。同じ女性なのに全く共感されないことへのがっかり感。再建がまるで美容整形と同じレベルで語られる違和感。全摘し再建した人は今は幸せなのでしょうが、そこへたどりつくまでにいくつもの葛藤や苦悩があったであろうことが、想像されない寂しさ、そんなものが入り混じっていたように思います。

ちなみに再建というと、胸にシリコンを詰めて終わり、と単純にイメージしてしまいますが、そんな簡単なものではありません。手術が楽だとされる人工物を入れる場合でも、完成するまでには半年くらいかかります。まずは切除して平らになった皮膚を伸ばさなければいけないからです。生理食塩水の入ったバッグを挿入し、少しずつ食塩水を注入し、皮膚を伸ばしていきます。その話を聞いた時、私もそんなに時間がかかるのかと驚きました。

またより自然に仕上がる自分の組織を使う場合なら、お腹や背中などの健康な皮膚や筋肉を切除するため、大がかりな手術になる上、新たな傷も作ってしまいます。

「無くなったら再建すればいい」と簡単に言えるものではないのです。それだけに、軽い返し方をされると悲しくなるのです。

乳房を切りたくないと思う患者には、それぞれ乳房に対する思い入れがあります。もっと言うならそこに積み重ねてきた物語があります。それを無視して、命のためといわれても納得ができないのだと思います。乳房を失うということに心が奪われている間は、その先に進めないからです。

医療者から見れば、とても命と引き換えにはできないものであっても、他人から見れば、もう用済みのものであっても、本人にとっては愛しいもの。「つらいよね」「いやだよねえ」という寄り添いや共感をしてほしいものなのです。

乳房を切ることへの抵抗感をどんどん強くするのか、少しずつ受け入れられるようになるのかは、初めのこの寄り添いが大きく関わるように思います。まさに、前回にも書いた「心を溶かす」気持ちに沿った声かけがいるのです。

胸にとらわれて、その先のもっと大事な「命」に向き合えない人を1人でも減らすためにも、周りの人の役割はとても重要です。どのような言葉で、トーンで、気持ちで話せば届くのか、まずはそこからです。少なくとも「全摘です」という冷たい一言から始めないでほしい、そして「命と胸、どっちが大事」と突きつけないでほしい、そう私は思います。

 

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さかゆうプロフィール

さかゆう

さかゆう

しゃべり手 たまに書き手。 ネット問題に取り組む消費生活アドバイザーでもある。母親を希少がんで亡くし、自身も 2014年に乳がん発覚。手術を行い 現在経過観察中。