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「子どもに伝える」とは 汲み取ること

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「話すこと・聞くこと」を仕事にしてきましたが、子どもへの伝え方は、子育てを通して教わりました。どんなに小さくても言葉で話して聞かせることの大切さ、話すことと同じくらい聞くことの重要性、また真実と嘘との間で話す必要性。そうしたことに気付かせてくれたのが、子どもとのやり取りでした。

我が家は転勤族、これまで6回の引っ越しをしてきました。子どもができて初めての引っ越しは息子が1歳の時でした。引っ越し作業の慌ただしい中に置くのもかわいそうだと、しばらく姉に託し、新居に連れてきたのは部屋が整ってからでした。

珍しそうにきょろきょろしながら新しい家に入って来た息子を、まずはおもちゃのある部屋に連れていき、遊ばせようとしましたが、目を話すとなぜか玄関に行きます。「今日は家で遊ぼうね」と部屋に戻すのですが、しばらくするとまた玄関に行くのです。

何度も繰り返すのを見て、はたと気づきました。この子は元の家に帰ろうとしているのではないかと。そこで私は子どもの目を見て、「引っ越しをしたから今日からはここが○○ちゃんの家なんだよ」ということを丁寧に話して聞かせました。すると、話を静かに聞いていた息子は、すっと立って部屋に戻り遊び始めたのです。

この時、1歳の子どもがどのように理解したかは定かではありませんが、この体験からどんな年齢であっても、言葉で伝えることは大切だと実感しました。

さらに幼稚園に入園した時のこと。初めは喜んで登園していたのが、そのうちに行くのを渋るようになります。何か嫌なことがあるのかとあれこれ探ると、たどたどしく話し始めたのです。3歳になったばかりの言葉が遅い子どもの話は、なかなか要領を得ませんでしたが、根気よく言葉をはさみながら聞き出しました。するとどうも担任の先生の言葉が馴染のない方言だったためきつく聞こえ、いつも叱られているように感じていたことがわかりました。

そこで私は、「先生にお手紙を書いて聞いてみよう」と、子どもの目の前で手紙を書き始めました。字も読めない幼子が、字を書く私の手元を熱心に見ていた記憶があります。そして翌日、手紙を読んだ先生が、「○○君、先生全然怒ってないよ」と優しく話してくれたことで、また彼は元気に登園するようになりました。この時、子どもの思いを聞いて拾い上げることの大切さを学びました。

その後、幼稚園の年長の夏にまた引っ越しをします。夏休みに知らない土地で独りぼっち。寂しかったと思います。その新居に移っての開口一番は、「もう引っ越しはしないよね」でした。私と夫は顔を見合わせました。一瞬なんて答えようか迷いましたが、「それはどうかわからないけれど、ここでもたくさんお友達ができるよ。あとでこっちの幼稚園を見に行こう」と答えました。

必ずまた引っ越すのですが、それは今言う必要はないのではないかと思ったのです。そしてのちにこれでよかったと実感します。その後の生活を通して、自然と本人が自覚していったからです。それを証拠に次の引っ越しが近づいた頃、「もうそろそろ引っ越しするよね」と自ら言い出しました。

言葉でしっかり話すべきことと、徐々にわからせていくこと、子どもには両方必要なのだと感じました。

息子が高校生になって初めて話してくれたことがあります。「転校した当初は自分を殺して、クラスの様子をじっと観察することに徹する。で、いろいろわかってきたら、徐々に自分を出していく。これが新しい場所にうまく馴染んでいくコツなんよ」と。

転校を繰り返すことでいろいろ考え、自分なりの処世術を身に着けていったことを、この時初めて知りました。自分の置かれた環境の中で、子ども自身も学習していくものなのですね。

今、子育てしながら、がん治療を行っている方もたくさんおられることでしょう。厳しい話を子どもにどう伝えるか、悩んでいる方も多いと思います。子どもの年齢や置かれた状況、伝える内容等々、各家庭で判断すべきことが山ほどあって、頭を悩ます問題です。けれど一つ言えることは、子どもは親が思うよりも、案外たくましく与えられた状況に対応していくということです。

そのために大事なことは、「どう話すか」以上に、話を聞いた子どもが「どう思い考えたかを知ること」です。そのためには「言葉で吐き出させること」がとても重要になってきます。初めは言葉にできなくても、そのうちその子のペースで何らかの思いを話したくなるはず。その時のために、いつでも吐き出せる環境を作っておくことです。「いつ何を言っても聞いてもいいんだよ」そんな言葉がけも、子どもには救いになります。抱える不安をうまく周りの大人と共有できれば、きっとまた前に進んでくれるはずだから。

子育て世代の闘病はしんどいことが多いものですが、「子どもの力とこれまで自分が注いできた愛情を信じてほしい」 悩める患者さんには、そう応援したい気持ちです。

 

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