10月の「ピンクリボン月間」にちなんで、9月29日、神戸市のホームページの市民検診のページに「乳がん啓発ムービー」がアップされました。女子サッカーのINAC神戸レオネッサの4人の選手が出演する30秒の動画。
「特に多いのが40代から50代。30代も要注意です。」と訴えて最後は検診を勧めます。「30代も要注意」はテロップで強調もしています。私はこの「30代も要注意」に大きな疑問を持ちました。
34歳で亡くなった小林麻央さんの報道で、「若くても乳がんになる」というイメージが高まりました。けれど乳がんは40代から急激に増える病気です。それはデータを見ても明らかです。
2013年新たにがんと診断された人のうち、30代ー4.7% 40代ー19.7% 50代ー19.9%(国立がん研究センターがん対策情報センターの統計データより)
このため国が推奨する乳がん検診の対象は40歳以上です。とはいえ「30代でも4.7%の人がなっているのだから検診しなくては」と思う方もいるでしょう。家族性や遺伝性があり、年齢が若くても検診が必要な人もいますが、そうしたリスクがない30代は検診を受けても見つかることが少なく、逆にデメリット(若い人の乳房はマンモグラフィーでは発見しにくく、がんではないのに要精密検査となり、精神的なダメージが大きいなど)の方が多いため推奨されていないのです。
そうした背景があるにもかかわらず「30代も要注意」と訴えるのは、いたずらに不安を煽ることにもなりかねません。
こうしたことは神戸市だけの話ではないのです。市区町村が行うがん検診には、疑問を持つ内容のものがたくさん存在します。
住民検診は市区町村が費用を一部負担して行っています。税金が使われているわけです。そこで厚労省はがん検診の効果(死亡率減少)に対する評価を行って指針を出し、市区町村の事業もそれをもとに行うよう勧めています。
現在指針で定められているがん検診は、肺がん、大腸がん、胃がん、子宮頸がん、乳がんの5つです。この5つの検診は実施することで死亡率が減少することがわかっているものです。
指針には対象年齢や受診間隔も明示されています。肺がん、大腸がんは1年に1回。その他は2年に1回。子宮頸がんは20歳以上。その他は40歳以上を対象にしています。(胃がんは基本50歳。エックス線検査に関しては40歳以上も可。また1年に1回も可)それなのに、指針に沿わないがん検診を行っている市区町村があることが、厚労省の調査で明らかになっています。
まずは対象年齢。指針以外の年齢で実施している市区町村は28年度の調査では乳がんが最も多く(38.5%)次いで胃がん(35.4%)です。
次に検診対象でない部位での実施。特に前立腺がんの検診(PSA検査)が目立って多く80.4%にのぼります。前立腺がん検診は効果が不明であること以外に、過剰診断の不利益も問題になっています。そうした説明もした上で実施しているのでしょうか。
そして検査項目です。指針は新しい評価が出てくると改正されます。新たな検査が加えられることもあれば、削除されることもあります。平成28年度の改正では視触診(乳房をさわり目視して検査)が乳がん検診から削除されました。この変更に対し、やめる時期にばらつきがあるのはともかく、「視触診をやめる予定なし」と答えている市区町村が22.5%あることに驚きます。これはどう理解すればいいのでしょう。「必要」だと考えている医療界の重鎮がその市区町村にいるのでしょうか。
住民検診には公費が投入されています。だからこそ国はその効果を科学的に検証しているわけです。指針に異議があるのならきちんと議論すべきであって、それをせず独自のやり方を変えないというのは住民にとっても不幸なことです。
検診は受ける側の体や心に負担もかかります。検診を受ければがんが必ず発見できるわけではないだけに、受ける限りは、せめて現時点で最も効果があるとされるものを受けたいと住民としては思うからです。
がん検診は何のために行い、指針はなぜ出されているのか。まずは市区町村への教育から始める必要があるようです。
ここまで読んで「私は職場で受けているから関係ない」と思っている方もいるかもしれません。でもその職場での検診はもっといい加減だということをご存じでしょうか。それについては次回。
(参照)
・平成28年度「市区町村におけるがん検診の実施状況調査 集計結果」