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センセーショナルな情報こそ慎重に

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20年前、私は近藤誠さんの本に影響を受けましたが、今出されている本には疑問を持っています。こうした区別ができたのは、いったん20年前の思いや考えをリセットして、今の本と向き合ったからだと思います。20年前の思いのまま今の本を読んでいたら、ひょっとしたら今頃「がんは放置すべき」に、のめりこんでいたかもしれません。情報と向き合う時に、「一度考えや感情をフラットに戻すこと」加えて「反対意見にも目を通すこと」はとても大事で、特にセンセーショナルな情報であればあるほど、必要なことだと思います。

 

「病はわからないことばかり」(2015年7月号掲載)

前回、近藤誠さんの20年前のベストセラーについて書きました。患者自身も治療について考えなければいけないと気づかせてくれた良い本だったと私は思いましたが、近年量産されている本には違和感があります。

昔の本はわかりやすく書かれているとはいえ、じっくり読まなければ理解できないところも多々ありました。それだけ丁寧に書かれていたのだと思います。

けれど今の本は広く読んでもらうことを目指したのか、主張がより簡略化され、その分大事なところまでをもそぎ落してしまった印象です。

実際専門家からも反論が多数出ています。それら共通する主張は、今の近藤さんの本は情報も古く、根拠としているデータも都合よく切り取っていて、科学的根拠を示せていないというものです。

たとえば、近藤さんは「延命しても抗がん剤の副作用で苦しむ期間が延びるだけ」という主張をしていますが、腫瘍内科医Shoさんは、ブログ『がん治療の虚実』の中で、「抗がん剤を使った胃がん患者群では生存期間中央値が大幅に延長しただけでなく、抗がん剤の副作用を含めても、QOL(生活の質)が有意に改善されたという無作為比較試験での報告がある」と書いていて、胃がんに対しての抗がん剤のメリットは確固たるものになったと科学的根拠を基に反論しています。腫瘍内科医というと抗がん剤を扱うプロなので、専門外の近藤さんよりも説得力があります。

その他、同じく腫瘍内科医の勝俣範之さんは、近藤さんが「がんになったら放置治療を勧める」としている点について、「抗がん剤は効く人もいれば、効かない人もいる。がんの治療をするなとか、しなさいとか、患者に押し付けるのは乱暴。一緒によく話し合うことが大切」と言います。

ただ、こうして丁寧に反論している医師の主張は、「結局どうすればいいの?」とはっきりした結論を求める人たちには響きにくく、マスコミも明快な論調の近藤医師に群がりがちです。

私もマスコミで仕事をしてきて、視聴者は解決策を求めるということを知っているので、言い切り型の論調を取り上げたくなる取材側の気持ちもわからなくはありません。けれどそれは、正解がないものに無理に答えを求める行為でしかなく、がん治療の現実からはかけ離れてしまいます。

がんに限らず、病はわからないことばかりです。たとえ同じ病気、病状であっても、患者一人一人、体力も体質も生きてきた背景も異なり、治療効果も様々です。一律にはいかないから悩ましいのです。

私のような初期のがんでもいろいろなことが起こり、その度に夫がため息をつきながらつぶやきました。「なんだかすっきりしないことばかりだなあ」と。私でさえそうなのですから、進行がんで何年も闘病している人たちの苦悩は、こんな比ではありません。

けれどこの複雑な状態こそが現実です。もやもやしていて、悩ましく、時に予期せぬことも起こる中で、様々な選択をしていかなければいけない、それががん治療です。そんながん治療に白黒つけるのですから、やっぱり近藤理論はおかしいと患者としても思います。

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