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このコラムは、北斗晶さんが病を公表して騒ぎになっていた頃に書いたものです。今も治療を続けておられるようですが、元気そうなお姿もブログに出てきて嬉しく感じます。いつの日かお仕事にも復帰されればいいなとも思います。

有名人の病の公表は、影響力も大きいだけに、話す内容にも吟味が必要です。北斗さんのように病気がわかって間もない頃に公表すると、思わぬ反発も起きます。というのも病がわかった頃の患者は、当然のことながら自分のことで頭がいっぱいだからです。その病の経験者が山ほどいることにまで思いが至りません。病気の知識もそれほどないだけに、この時期の発信はとても危険です。北斗さんは「検診に行こう」とも強く発信され、医療機関が混乱する結果にもなりました。病の発信は、そこに至る前に知るべきこと、考えるべきことも多いと実感しています。今回のことは自戒も込めています。

 

「北斗さんの病状公開に思う」(2015年11月号掲載)

タレントの北斗晶さんが乳がんを公表し、話題になりました。有名人が現在進行形の病状を赤裸々に公開するという異例さも手伝って、関心が高まっています。

応援する声が多い一方で、病状公開に否定的な意見も出てきています。特に退院会見以降、乳がん患者とそうではない人とで反応が大きく変わりました。「ステージⅡbで5年生存率50%」という言葉が飛び出し、それをマスコミが一斉に報道したためです。

その後夫の佐々木健介さんが、「あくまでも告知時での話」、「手術で生存率も上がった」などとフォローし、また報道でも乳がんのステージと生存率について解説するものが増え、鎮静化しましたが、「Ⅱbで生存率50%」という言葉は強く印象付けられました。

ちなみに乳がんの病期は、0期、Ⅰ期、Ⅱa期、Ⅱb期、Ⅲa期、Ⅲb期、Ⅲc期、Ⅳ期に分かれていて、全国がんセンター協議会が公表しているデータ(10年前の診断・治療に基づくもの)による各ステージの5年生存率は、Ⅰ期98.7%、Ⅱ期94.6%、Ⅲ期76.1%、Ⅳ期31.6%となっています。あくまで一つの目安とはいえ、北斗さんが公表した数字があまりにこのデータとかけ離れていたため、がん患者の間で動揺が走りました。

同じⅡb期の患者が「私はそんなに悪い状態なのか」と心を乱したり、もっと病期の進んだ患者が職場で騒がれたりなど、影響を受ける人が出てきたからです。

また北斗さんの、「いずれ手術痕を公表する」という宣言に対しても、患者の抵抗感は強く、「小さい子どもがショックを受けないよう、お風呂に一緒に入る時は水着を着ているというのに、公表などやめてほしい」「必死で隠しているのに、公表されたらあの人もこんなふうになっているのかと想像されてしまう」などと抗議しています。

こうした患者の意見はネットで増幅し、「病気を売り物にしている」「自分だけ悲劇のヒロインになっている」など批判はエスカレートしていきました。

がんになる人が増え、患者の存在が身近になってきたことで、がんは特別な病ではないことが少しずつ理解されてきました。そして目下の課題は、がん患者が治療を受けながらどう仕事を続けていくかに移りつつあります。そんな中で今回の騒ぎかたは、がんは大変な病という、少し前の時代に戻してしまった感があります。

ある番組でコメンテーターを務めていたジャーナリストの竹田圭吾さんが、北斗さんの話題にコメントする際、自身も2年前からがん患者で、かつらであることもさりげなく公表し、好意を持って受け止められました。その後、テレビで伝えきれなかったことも含め、ネットで淡々とまとめておられましたが、そこには気負いのない、等身大のがん患者の姿がありました。

北斗さんは自分を奮い立たせるために、自身に使命感を与えているようにも映ります。がん患者としての人生が始まったばかりの今、発信する意義はなんなのでしょう。それよりも治療を重ね、一つの区切りを終えた時に見えてくる景色、それを私は聞きたいと思います。

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