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家族の助けとこれから

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手術後、ちょっとした家族の気遣いに、とても心が温かくなりました。退院した翌日、「まだ作らなくてもいい」と言われながらも、家族に料理を食べさせたいと思い、包丁で野菜を切った時でした。予想以上に傷跡が痛み、思わず「痛い!」と声を上げたら、夫が即座に「新しい包丁を買いに行こう!」と言い出しました。「大丈夫」という私を強引に連れ出し、結局買うことに。切れる包丁を手にして楽になったことより、その気遣いが何より嬉しかったのを覚えています。

また息子も、洗濯物のカゴがないなと思っていたら、ベランダまでそっと運んでくれていたりしました。また朝の食器の洗い物を、自ら担当すると言い出し、それまで担当だったお風呂掃除に加え、朝の片づけも彼の担当になりました。ちょうど受験期でしたが、考えると、勉強しかやらないというのも生活者としていびつなことなので、受験当日以外はやり続けてもらいました。今彼は1人暮らしをしていますが、いい前訓練になった気がします。病気はちょっとしたプレゼントもくれました。

このように病気になって家族の存在をありがたいと実感しましたが、一方で、そうした支えを頼りにするだけではいけない現実もあります。「国土の長期展望」によると、2050年には約4割が単独世帯になり、そのうちの5割を超える世帯は高齢単独世帯になるとされています。今家族がいても、老後は1人になる人も多いはず。高齢期に向けて、血のつながり以外のネットワーク作りも重要です。

 

「闘病 心強い家族の助け」(2016年3月号掲載)

がんになると、節目ごとに家族の同席を求められます。告知時、手術の説明時、手術日、再発がわかった時など。それぞれに家族も聞くべき話があるのですが、仕事を休めないなど、同席できない家庭も出てきます。

私の夫は時間に関係なく呼び出され、休みの予定も立てにくい仕事です。そのため家庭内のことはこれまでほとんど一人でやってきたので、病気が判明しても、経緯は細かく報告しつつも、一緒に来てもらうという発想はありませんでした。

けれど手術前、主治医から家族の同席を促され、夫に話してみると、意外にも「その段取りをしている」という答えが返ってきました。夫は単身赴任。簡単に帰って来れないことがわかっているだけに心配しましたが、すでに職場の上司や部下、そして応援要請が必要になった時のために、さらに上層部にまで事情を話し理解を得たというのです。

がん患者の家族には、職場に本当の事情を話さず、別の理由をつけて休みを申請する人がいます。家族の職場にまで自分の病気を知られたくないと、患者自身がオープンにすることを拒む場合も多いからです。

私も夫が自分の職場に知らせたと聞いて、初めは少し抵抗がありました。けれど正直に話して理解を得る方が、休みは取りやすくなります。今では、きちんと伝えて休む環境を整えてくれたことに感謝しています。

そしてこの夫の職場へのカミングアウトは、予想外の好結果をもたらします。強力な理解者が現れたのです。上司の奥さんが少し前に同じように乳がんの治療を行っていたからです。また「奥さんいかがですか」と何度も尋ねてくれる若い部下は、「私の母もがんだったもので」と告白してくれたそうです。2人に1人がなるとされる時代だけに、案外周りにはがん経験者がいます。オープンにすると、思わぬ相談相手に出会えることもあります。

ただその一方で、オープンにしても休めない人も増えています。休めば給料に響く、人手不足で休むこと自体許されないなど、労働環境が悪化しているからです。また初めは協力的な職場でも、闘病が長くなると、「また?」という反応に変わることもあります。

こうした場合、病院からたびたび「家族も一緒に」と言われると、患者が家族との間で板挟みになりかねません。私の知り合いは家族を呼ぶことを渋っていると、医療者に、「命と仕事どっちが大事なんですか」と言われて困っていました。

今は一人世帯の増加で、支える家族が近くにいないという人も多くなってきました。さらに家族がいても、上記のように休めない状況や、休もうとはしてくれない日頃からの関係性など、外からは見えない事情を抱える家庭もたくさんあります。

「家族と一緒に」が可能になる人は、今後ますます減っていくことでしょう。闘病に家族の助けがあるのはとても心強いことなのですが、それがかなわない人が出てきた以上、家族以外で支えていく体制作りも、強めていく必要があります。

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