がんになっても 普通に生きる

がんについての理解 そしてがん患者への誤解をなくすために

Home » 社会的課題 » 遺伝性のがんと遺伝子検査

遺伝性のがんと遺伝子検査

calendar

親族にがんになった人がいるという家族歴が、リスク要因になるがんがあります。大腸がんや胃がん、そして肺がんもその傾向にあるとされます。

そして乳がんも、家族に乳がん患者がいれば、発症リスクは上がります。さらにそれが近い血縁者であるほど、また人数が増えるほど、リスクは高まります。

家族歴があれば、ない人よりがんになりやすいと言われると、遺伝によると思いがちですが、家族歴=遺伝というわけではありません。がんのリスク要因は生活習慣や加齢など様々あるからです。遺伝性かどうかは、遺伝子検査をしてみないとわかりません。

ちなみに、遺伝性のがんは全体の5%~10%と割合的には少ないのですが、家族歴だけの人よりもリスクが上がります。これまでにいくつかの遺伝性がんの存在が明らかになってきています。

「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」もその一つです。このHBOCは、BRCA1やBRCA2という、がんを抑制する遺伝子がうまく働かないことで、がんが発症しやすくなります。どちらかに遺伝子変異がみつかると、乳がんの生涯発症率は65~74%、また卵巣がんではBRCA1に変異があれば39~46%、BRCA2では12~20%の発症率とされます。(日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドラインより)

HBOCには、発症年齢が低い、両側になる、乳がんと卵巣がんのどちらにもなる、男性にもなる、などの特徴があります。また、祖母よりも母、さらに娘というように、世代が変わるごとに発症年齢が若く、また重くなることもあるそうです。

私の知り合いも、お母さんと本人、そして妹も乳がんになり、自分の娘への影響を心配していました。この家族歴ですと遺伝性も疑わなければいけません。もし遺伝性のものならば、子供に50%の確率で遺伝します。

こうした場合、まずは「遺伝カウンセリング」を受けることを勧められます。カウンセリングは保険が効かないため、30分5000円くらいかかってしまいますが、遺伝性がんや遺伝子検査について、専門家から詳しく聞くことができます。遺伝性がんの場合、非遺伝性がんとは治療が異なることもあり、自分がどうなのかを知ることは、発症後の治療面でも重要になります。

とはいえ、遺伝子検査はとても悩ましい問題を多くはらんでいます。もし遺伝子変異がみつかれば、そのあと考えるべきこともたくさん出てきます。

女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、高い確率で乳がんや卵巣がんを発症する可能性があると、2013年に予防的に両乳房、卵巣、卵管を切除し、話題になりました。日本では予防切除という概念がなかったので、驚きが走りましたが、海外ではHBOCとわかると、35歳~40歳で予防切除をすることを推奨しています。切除はがんの発症に対する最も効果的な予防法だからです。以前聞いた専門家のお話では、切除によって乳がんは90%、卵巣がんは65%、予防できるといいます。

そうはいっても、発症もしていない臓器を切除することには抵抗があるものです。遺伝子変異があるからと言って必ずがんになるわけではないからです。カウンセリングでじっくり話し合い、リスク割合と照らし合わせながら、決めていくしかありません。切除以外の予防法は定期的な検診となりますが、卵巣がんの場合は検診ではみつけにくいこともあり、がんになる人が増える40歳頃からは、切除を検討せざるを得ません。

がん検診は、がんが見つかることもあるかもしれないという、覚悟を持ちながら受けることが大事だと、私などは思っていますが、遺伝子検査はそれ以上に、もしもそうだったらどうするかを考えて臨まなければいけません。遺伝子変異があれば、そこからの悩みはとても深いものになるからです。

さらにこの苦悩は精神的なものだけで終わりません。というのも、予防のための切除や検診には公的保険は効かず、全額自費になってしまうからです。そもそも遺伝子検査自体も保険が効きませんから、その人が血縁の中で初めて受けるなら、20万~30万くらいの費用がかかってしまいます。その後、他の血縁者も受ける必要が出てきた場合は、検査項目が絞られるため、少し安くなりますが、それでも4、5万ほどかかります。まさに精神面と費用面のダブルパンチになるのです。

もしリスクが高く、予防と向き合うことになっても、高額な費用がかかる切除を選択できる人は限られることでしょう。また検診で様子を見ていくにしても、自費による検査を継続して受け続けるとなると、こちらも費用負担は大きくなっていきます。「ならば遺伝子検査など受けない」と、知ることを放棄したとしても、それが金銭的な理由からだとすると、複雑な思いを抱えて生活していくことになります。

遺伝性が疑われる人に国の支援がない今の状況は、改善していかなければいけません。誰でも簡単に遺伝子検査を保険適用で、というわけにはいきませんが、少なくとも一定基準を設け、それに該当する人には、保険適用も考えていくべきだと思います。リスクの高い人を予防していくことは、長い目で見れば医療費削減にもつながるからです。

次回は遺伝子検査の社会的リスクについて書きたいと思います。

この記事をシェアする

コメント

  • さすがによく御調べくださっていますね。私の連れ合いである梶寿美子(全盲)は20余年前に乳房全摘の手術をウェまして、受けまして、転移することはなく、何とか筝曲演奏をずっと続けております。坂崎さんのエッセイはどんなテーマでも優れたないようなので楽しみにしております。

    by 梶 宏 2017年2月1日 3:30 PM

    • 梶様。奥様は、その後お元気でほんとによかったです。励みになる過分なお言葉も嬉しく思います。これからもゆっくりペースながら、書いていきます。また読んでやってください。

      by さかゆう 2017年2月1日 11:53 PM

down コメントを残す




関連記事