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知られていない「日本手話」

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知られていない「日本手話」

乳がんの定期検診で病院に行った時のことです。保険証を提示する窓口で、聴覚障がい者と手話通訳者が、受付の人と時間をかけてやりとりしていました。その姿を見て、聴覚に障がいのある人は、医療者とうまくコミュニケーションがとれるのか気になりました。

調べ始めると、聴覚障がい者についてわかっていないことが多いのに気づいたのです。そこで今回はまず、手話について書いてみようと思います。

はじめに「手話とはどんなもの?」と聞かれたらどう答えますか。「言葉を手や指で表現するもの」。私ならそんなふうに答えそうです。そして多くの方はこの答えに違和感を持たないのではないでしょうか。「言葉を手や指で表現する」のは「日本語対応手話」と呼ばれるものです。「じゃあ、日本語に対応していない手話もあるの?」そうなのです。あるんです。

日本語に対応していない手話。それは生まれつき、または幼い頃に耳が聞こえなくなった、ろう者が使う手話です。「日本手話」と呼ばれ、「日本語対応手話」とは別物です。別物といわれるほど両者は違います。

国立豊田高専教授の神谷昌明さんが書かれた『「日本語対応手話」と「日本手話」』には下記のようなことが書かれています。

「きちんと使う」を手話で伝えるとします。「日本語対応手話」では「きちんと」という手話に「使う」という手話を続けます。一方「日本手話」は「きちんと」は顔の表情で表し、「使う」を手話で表します。つまり顔の表情と手話、2つを同時に使って表現するのです。

手話以外の表現を非手指動作といいます。「顔の表情」の他に「眉のあげさげ」「視線の方向」「うなずいたり首を振ったりする頭の動き」なども使います。非手指動作は文法的な働きをしているのだそうです。手話単語を文章にするのが非手指動作といったイメージです。

「会う」という手話は動かすことで、誰と誰が会うのかが表現できます。「日本手話」は位置、空間、方向を利用する独特の言語です。

さらに「日本語」と「日本手話」は文法も異なる全く別の言語なのです。ろう者はこれまで「手話言語法」の制定、つまり「手話を言語として認めよ」と訴えてきましたが、ようやくその意味を理解し、共感することができました。聴者の第一言語は日本語で、日本で暮らしているとはいえ、ろう者の第一言語は「日本手話」なのですから。

聴者の手話通訳者の多くは「日本語対応手話」を使っているといわれますが、それは別言語である「日本手話」の習得が難しいためです。

もう一つ誤解していたことがあります。ろう者にとっては読み書きは容易なことではないということです。「話し言葉は通じなくても、読み書きではやりとりできるはず」と聴者は思ってしまいますが、これは大きな誤解です。

聴者は幼児期に生活の中で話すことを覚え、学校に行くようになって読み書きを学びます。読み書きは、音声言語を習得したあと、教育によって習得するものなのです。ろう者は音声言語のベースがないため、読み書きを習得するのに聴者の何倍も時間がかかります。

特に日本語の助詞「てにをは」に苦労するそうですが、これは日本語を母語としない外国人が日本語を覚える際につまづくところと共通しています。ろう者にとっての読み書きは、第二言語の習得なのです。

ただ聴覚障がい者の中には、文章を問題なく読めたり書けたりする人もいます。「難聴者」や「途中失聴者」などは、もともと日本語を使って生活してきたからです。

聴覚障がい者といっても背景はさまざまで、それによってメインとするコミュニケーションの方法は異なります。いろいろな聴覚障がい者がいるため「なぜ書けない?なぜ読めない?」の誤解がなかなか解消されないところもあります。

「日本手話」は、先にも書いたように「手話」と「非手指動作」を同時に使って表現できるため、情報の伝達が速い言語です。そのため初めは筆記や「日本語対応手話」を使っていた難聴者や途中失聴者も、「日本手話」を覚えていくといいます。

その結果、今の手話は「日本手話」と「日本語対応手話」の2種類に加え、その2つが混ざったものも存在します。

ろう者の中には聴者とは「日本語対応手話」で、ろう者とは「日本手話」でと使い分けている人も多いといいいます。多数派言語である日本語に合わさざるを得なかった、ろう者の歴史を物語っています。

・手話には「日本手話」「日本語対応手話」「その混成」の3つがある
・ろう者が使う「日本手話」は、日本語とは別の言語
・ろう者にとって日本語の読み書きは、外国語を習得するレベルの努力が必要
・聴覚障がい者には「難聴」「途中失聴」「ろう者」がいて、メインのコミュニケーション方法は人によって異なる

こうした聴覚障がい者の現状がいつまでたっても社会に浸透しないため、誤解や偏見がなくならないのだと実感します。当事者からの発信はたくさんあるのに、聴者の目には留まらない。マイノリティの声を届けるのはほんとうに難しい。がんについての情報がなかなか広く届かないことと重なります。

私の後輩が「日本手話」を学び始めました。やっと彼女が習っている手話がどんなものかが理解でき、改めて応援したい気持ちが沸いてきました。彼女が身につけたら私も教わりたいです。長く日本語を強制されてきたろう者。これからは聴者が「日本手話」という言語を習得する番です。

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