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なぜニコル君が拒否されるのか

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なぜニコル君が拒否されるのか

介助犬のニコル君が我が家にやってきました。といっても携帯用チャーム(犬のぬいぐるみのキーホルダー)です。

お友達のFacebookに介助犬チャームの話が出ていて「どんなものですか?」と尋ねたら、さっそく贈ってくれました。このチャームはチャリティーグッズの一つで、購入すると介助犬の支援になります。そうとは知らず贈ってもらい、ちょっと恐縮しています。

贈ってくださったのは介助犬と暮らす佐藤京子さん。アテネパラリンピック円盤投げの銀メダリストです。高校時代に事故で頸椎を傷め下半身まひになり車イス生活に。スポーツ好きだった佐藤さんは、陸上競技に取り組んでメダリストになりました。けれどその後に職場でまた事故に遭って、症状が悪化します。「北京オリンピックで金メダルを」という夢も砕かれ、退職も余儀なくされます。外出するのは慣れた場所に車で行くだけ。そうした生活が8年ほど続きます。

佐藤さんの生活が変わったのは2014年の10月、介助犬ニコル君と出会ってからです。

介助犬とは、手や足に障害がある方の日常生活の動作を補助する犬です。身体に障害がある方をサポートする補助犬と呼ばれる犬は3種類で、盲導犬、聴導犬、そしてこの介助犬です。盲導犬は目の不自由な方のサポートを、そして聴導犬は耳の不自由な方に、ドアのチャイム音など、生活に必要な音を知らせてサポートします。

では介助犬は? ニコル君との日常について佐藤さんに聞いてみました。1番の役目は落とした物を拾うこと。また携帯電話や佐藤さんが足にはめている装具を持ってきたり、出かける時は靴をとったり、玄関のドアを閉めたりもしてくれるそうです。

介助犬はその他に服を着る手伝い、電気の点灯、冷蔵庫を開けて中のペットボトルを取ってくるなど、様々なサポートができる優秀な犬です。

介助犬の訓練は基礎と介助作業に6か月から1年。さらに3か月ほどかけて介助犬のユーザーと合同訓練。その後、一緒に認定試験へと進みます。佐藤さんとニコル君もこうした訓練を経て今があるのです。

佐藤さんの生活はニコル君がきてどのように変わったのか。まずは行動範囲が広がりました。車の走行距離もひと月100キロほどだったのが、その10倍の1000キロを超える月もあるほどに。「さあ、ニコル君、今日はどこに行く?」と、積極的に出かけるようになり、地下鉄や路線バスにも乗るようになりました。

必要な外出だけでなく、目的なく街に出ることも増えたと佐藤さん。ニコル君は単に手伝いをしてくれる存在ではなく、佐藤さんの生活に、張りや潤いをもたらしてくれるパートナーです。

佐藤さんのFacebookを見ていると、ニコル君のことがよく出てきます。彼女自身もニコル君をよく観察していることがわかります。というのもユーザーは介助犬からサポートを受けるだけでなく、自ら介助犬の世話や管理も行うからです。佐藤さんも毎日のブラッシングやシャンプー、排泄の世話などを自分でしています。「大変だけれど楽しんでやっている」といいます。こうしたことから愛情がより育まれていくのだと思います。

パートナーとなった佐藤さんとニコル君ですが、街に出ると厳しい現実にも遭遇します。ニコル君との同伴を拒否されることが多いのです。いろいろなところへ出かけようという意欲がわいても、行く先で受け入れられなければどうでしょう。

2002年に身体障害者補助犬法が施行されて、不特定多数の人が出入りする施設で補助犬の同伴を拒んではならないことが規定されました。それなのに法律が守られていない現実があるのです。

それはなぜか。一つは認知率の問題、つまり法律を知らない人が多いからです。3000人に聞いた調査では、補助犬法について「名称も内容も知らない」と回答した人が2004年は55.3%。そして7年後の2011年には64%。むしろ知らない人が増えています。

主な要因は報道だと指摘されています。法律ができた当初はマスコミに頻繁に取り上げられ、「知っている」という人が一時的に増えました。けれど取り上げる回数の減少に伴い認知率は下がっていきました。また企業内での周知も年数とともに疎かになっていることも影響しています。

ではもっと法律が広く知られれば解決するかというと、そう単純ではありません。高千穂大学の長谷川万希子さんらの調査で、スーパーやデパートが法律を知っているにもかかわらず、他の消費者からのクレームやトラブルを恐れて受け入れに消極的になっている実態が浮かび上がってきました。そして一般消費者の不安は、介助犬の衛生面とマナー面であることもわかってきました。

介助犬は、レストランではテーブルの下で待機するよう訓練されています。タクシーでもシートを汚さないよう足元に待機します。日々ユーザーから世話や健康管理もされていますし、訓練もしっかり受けているので排泄も勝手には行いません。私も2年ほど前、佐藤さん・ニコル君とある会合でご一緒しましたが、2時間を超える食事を伴う会の間、ニコル君の存在をすっかり忘れるほどでした。介助犬は社会マナーもしっかり訓練されている犬なのです。

こうした実態をまとめたDVDやリーフレットを見ると、不安に思っていた人たちも安心するという結果も調査で明らかになっています。それだけに、一般消費者の不安に迎合するのではなく、法律や実態を知らない人たちに正しい情報を知らせて受け入れてもらう努力をすることが、企業としての社会的責任だと私は思うのです。

先日訪れたショッピングセンターでは「盲導犬、介助犬、聴導犬の同伴は法律で認められています」とアナウンスがありました。少しずつですが取り組むところは出てきました。

佐藤さんたちユーザーも、介助犬のことを伝える活動を行っています。私も機会をみつけて補助犬のイベントに参加しようと思います。まずは知ろうとする。ここからです。

 

【参考】

1.『一般成人の身体障害者補助犬法の周知と補助犬の受け入れ-補助犬法改正後の共存意識-』 甲田菜穂子・松中久美子(東京農工大学農学部・関西福祉大学健康福祉学部)

2.『介助犬inショッピングエリア-介助犬を取巻く「目に見えない社会のバリア」を探る-』 高千穂大学 長谷川万希子第一ゼミナール ザ・ドッグ班

 

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