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答えは一つではない 高濃度乳房

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答えは一つではない 高濃度乳房

今回のコラムは書くのに苦労しました。この問題は乳がん検診の現状を知らない人にとってはわかりにくいことが多いからです。限られた字数の中でどう書けば概要を理解してもらえるのか悩みました。多くの方に関わる問題だけに、まずは最後まで読んでもらえるよう課題を絞り込んで書くことにしました。なんとなく「高濃度乳房」をとりまく問題があることを頭に留めてもらって、今後の動きに注目し考える人が増えればと思います。

それからこのコラムをアップしたあと、専門家からご指摘があったので少し付け加えておきます。問題となっている乳がん検診は対策型検診と呼ばれる、市民検診など市区町村が行う検診のことです。対策型検診は公費を使うものだけに、マンモ検診に効果がないならエコー検診をと簡単に追加できるものではありません。追加することで死亡率や医療費が減らせるのかというところが重要になってくるからです。現時点ではエコーを追加して死亡率が減るというエビデンスは出ていないのが現状です。この問題はさらなる調査結果や社会全体の利益も見据えて考えていかなければいけないものです。

ただ私は検診のやり方もさることながら、受ける側の認識も大事だと思っています。検診には利益だけでなく過剰診断などの不利益もありますし、がんがあれば必ず見つかるわけでもありません。「受けていれば安心」という万能なものではないのです。それは検診だけに限らない、医療そのもののもつ性質とも言えます。検診をしても、治療をしても、「うまくいかないことは誰にでも起こりうる」という前提を、みなが共有することも大事だと思います。

 

『答えが一つでない医療』(2017年7月号掲載)

私は3年前に受けた人間ドックで要精密検査となり、その後、乳がんが判明しました。その人間ドックの結果に「不均一高濃度」という言葉を見つけ「これはなんだろう」としばらく悩みました。

この「高濃度」は厚労省も実態調査を始めることを決め、テレビでも特集を組まれるなど今注目されています。これから乳がん検診を受けると、「高濃度」など自分の乳房のタイプも知らされることになるかもしれないからです。

濃度とは乳腺の密度のことです。乳房は、脂肪が少なく乳腺の密度が高い順に「高濃度」「不均一高濃度」「乳腺散在」「脂肪性」(参照:公益社団法人 宮城県放射線技師会のH.P)の4つに分かれ、「高濃度乳房」はがんのリスクが高いことがわかっています。

乳房のタイプを知ることは自分のリスクを知ることにもなるため、本来はきちんと通知されるべき情報で、米国では半数以上の州で通知が法制化されています。けれど日本で通知する自治体はまだ少数派。通知に消極的なのは、知らせる上で検討すべき課題が多いからです。

まず判定基準にあいまいさがあるという課題です。特に「高濃度」と「不均一高濃度」の判定は読み取る人によってばらつきが出てしまうというのです。この問題が気になっていた私は前回の診察時に、自分のマンモ画像を見ながら主治医に詳しく解説してもらいました。専門医が診ても私は「不均一高濃度」との判定でしたが、切り取り方によって「高濃度」と判定されることもあり得ることが実感できました。

では判定さえ一定になれば解決かというと検診自体の課題もあります。「高濃度乳房」はマンモグラフィー検診では画像全体が白くなり、がんも同じく白く写るため、がんがあっても発見しにくくなります。

高濃度乳房なのにマンモ検診を受け続けるのは、がんを発見する利益が少ない上に被ばくの不利益を重ねることになります。そこで追加が検討されているのがエコー検診です。けれどエコー検診にもまだ課題があります。

エコー検診を追加すると早期がんなどの発見は増えるのですが、死亡率を減らせるという科学的根拠が今の時点ではまだないからです。見つけなくてもよいがんを見つけてしまう不利益も出てきます。

こうなると「じゃあ高濃度と判定されたらどうすればいいの」と思う人も多いでしょう。「早くすっきりさせてよ」と思う人もいると思います。けれどこれが検診の、もっというなら医療の現実なのです。

今は多くの医療情報を得られるようになりましたが、その分悩みも増しています。医療は知れば知るほど、白黒はっきりした単純な世界ではないことがわかってくるからです。

学校教育で私たちは常に1つの正解を求められてきました。そして社会に出ると今度は答えのないことだらけの中で戸惑い、それでもなお1つの正解を求めようとします。

病気と向き合うことはわからないことが多い中で、自分なりの選択を繰り返すこと。それは苦しくしんどいことですが、刷り込まれてきた「1つの正解」から卒業するチャンスでもあると私は思うのです。

高濃度乳房のさまざまな課題も、わからないことがある中で、科学的にわかっていることをベースにして、より良い検診法を社会全体のバランスの中で探っていくしかありません。そして当事者である私たちも、答えが一つではない複雑な医療の現実から目をそむけず、わからないこととも向き合っていかなければいけないのだと思います。

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