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ドラマだから ドラマだけど『ブラックペアン』

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TBSで現在放送されている医療ドラマ『ブラックペアン』が物議を醸しています。ドラマに登場するCRC(治験コーディネーター)の描き方が本来の業務からかけ離れ過ぎているというのです。

私もこのドラマを1話から見ています。主人公は凄腕の外科医で、嵐の二宮和也さんが演じています。組織に反発する一匹狼的なところも、「私失敗しないので」の『ドクターX』大門未知子風です。

原作は海堂尊の人気小説『実装版ブラックペアン1988』ですが、ドラマと原作には違いがあります。まず原作の主人公は研修医の世羅なのに対し、ドラマでは外科医の海渡です。

また原作の舞台は1988年なので、CRC(治験コーディネーター)は出てきません。日本でCRCの本格的な研修が始まったのは、10年後の1998年だからです。

ドラマ用に新たに作られた、加藤綾子さん演ずるCRCは医師を豪華な店で接待したり、治験候補の患者に大金をちらつかせて、治験に誘導したりします。医療ドラマによくある権力争いや、業者との癒着を描くためにCRCを使っています。

その描き方に抗議をしたのが、CRCを認定している学会でもある臨床薬理学会です。TBSへの抗議文をフェイスブックで公開しました。

そもそもCRC(治験コーディネーター)とはどんな仕事なのか。

CRCは、治験を行う責任医師の指示のもと、事務的作業を行ったり、参加する患者の相談に乗るなど、治験がスムーズに行われるためにサポートするのが業務です。

CRCには2つのルートがあります。1つは院内CRC。病院の看護師や臨床検査技師、薬剤師などが担当します。もう一つはSMOという治験施設支援機関に所属しているCRC。SMOから医療機関に派遣されます。

ドラマで最も問題視されたのが、治験に参加する患者にCRCが300万円を支払う場面です。ドラマに出てくる患者は、事業が傾きお金に困っていました。参加するかどうか迷っている時に300万円を提示され、治験参加を決めます。お金で誘導されたわけで、この場面は現実離れしています。

被験者である患者に支払われるお金は負担軽減費と呼ばれます。これは交通費など、治験に参加することでかかる経費を補うために設けられたものです。額は1回の来院に対して7000円程度です。治験依頼者(製薬会社等)が負担し、医療機関を通して支払われます。

なので「支払額が300万円??」それもそのお金を「CRCが渡す?」なのです。

治験は新しい薬の効果や副作用を確かめるために行われるものです。予期せぬ副作用が出ることもあります。それだけに担当医師やCRCは、治験を受ける患者に丁寧に治験内容を説明しなければいけません。そして患者はその情報をもとに悩みながら参加する、しないを決めるのです。

治験において「患者を意図的に誘導しない」は、もっとも大切なこと。ドラマの「札束ちらつかせ」描写は、まじめに治験に取り組んでいる関係者なら許し難いでしょうし、何より治験に何らかの救いを求め、切実な思いで参加した患者を傷つけるものでもあるのです。

ドラマは作り話です。本来は「事実と違う!」と抗議するものではないと私は思っています。誇張したり、現実と異なるところがあっても、受け流して見るのがドラマだから。けれど、まだ社会にあまり知られていないことが、全くの別物に描かれてしまうと、間違った認識を視聴者に植え付ける可能性も出てきます。

番組のホームページでは、CRCの仕事内容を紹介するページがあります。抗議があったからなのか「ドラマの演出上、登場人物の行動は、治験コーディネーターの本来の業務とは異なるものも含まれています。」という但し書きも加えられています。

今回の騒動には「今風のCRCに定番役をやらせよう」そんな作り手の安直さも垣間見えます。

現実の治験の現場では、CRCによるデータの改ざんや、医師による収賄事件も起こっています。ドラマにダークさを入れたいのなら、現実に起きているできごとに目を向ければ、よりリアルさは追求できるはず。

『ブラックペアン』は、二宮さんを初め、達者な役者さんがたくさん出ていて、ドラマ自体は楽しめます。だからこそ、手垢のついた「医療ドラマあるある」から脱却した、良質なエンターテイメントを目指してほしいと、今回の騒ぎを見て思うのです。

 

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