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がんゲノム医療~「患者のための医療」であってほしい~

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「リムパーザ」は国内初の遺伝性がんの治療薬です。

今年4月に再発卵巣がん向けの薬として保険適用され、6月には遺伝性乳がんにも使用できるようになりました。

この薬を使うには、BRCA1やBRCA2という遺伝子に変異があるかどうかを、遺伝子検査を行って調べる必要があるため、検査も保険適用となっています。

「リムパーザ」は分子標的薬といわれる薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖や転移を起こす特定の分子だけを狙い撃ちするため、効果も高く副作用も少ないとされます。

「リムパーザ」も海外の臨床試験では、従来の抗がん剤治療と比べ、がんが進行せず安定した状態、薬が効いている期間が2.8か月延び、病気の進行または死亡リスクも42%減らすことが確認されています。飲み薬というところも患者にとってはありがたいところです。

効果的な薬は登場しましたが、遺伝性がんの治療は複雑な問題も伴うだけに単純には進みません。子どもに2分の1の確率で引き継がれるため、判明すれば家族も関わってくるからです。

遺伝の意味や派生する問題についてじっくり聞いた上で、検査を受けるかどうかを判断しなければなりません。そのため検査ができるのは専門医がいて、遺伝カウンセリングが可能な医療機関に限られています。現在の認定施設はネットで公表されています。

課題は遺伝カウンセリングを行う人材が不足していることです。「親族に伝えるのか」「子どもも検査をうけさせるべきか」など患者の悩みはつきないだけに、こうした苦悩に対応できる人材は不可欠です。付け焼き刃ではない人材育成と予算を伴う配置も急ピッチで進める必要があります。

また遺伝性がんは、以前「遺伝子がもたらす差別」で書いたように社会的差別も生み出します。米国では保険加入や就職などでの差別を禁止する法律が作られています。日本でも早急に整備しなければいけません。

多数の遺伝子を同時に解析して治療するゲノム医療が進めば、予期せぬリスクを知る人がさらに出てくることが予想されます。明らかになった情報のうち、本人にはどこまで伝えるべきかも考えなくてはなりません。

米国では患者にメリットがある情報だけに絞り、治療法や対処法がないものは伝えないのだとか。多くのことが明らかになる遺伝子解析(クリニカルシーケンス)では、情報の取捨選択のルール作りも必要です。

ゲノム医療は、これまで治療できなかった患者を救える可能性は高まりますが、医療現場の整備、社会的整備、倫理問題など、解決すべき課題が多い医療です。薬の開発競争だけが先行すると患者が置き去りになりかねません。

自分という人間を作る多数の遺伝子。その情報は人を幸せにも不幸にもします。知りすぎる不幸だけが増えていくことがないよう、「患者のための医療」を基本に、バランス良く進めてほしいと思います。

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